Story
Princess Legができるまで

 ガラスの義肢を作りたいと心に秘めていたが、義足は難しいのではないかということも頭によぎった。何から取り掛かれば良いのか分からず、義肢装具士をしている高校の友人に久々の手紙を書いた。彼女からのメールに「結論から先に言いますと、医療か工学の専門的な知識がないと、『義足』という名目で発表するのは難しいと思います。」ということと、「健常者の女性が何らかの事情で足を失った時に身に着けたいと思える憧れの義足のデザインとか、等身大で出来る範囲で作れるテーマにした方がいいと思います」という的確なアドバイスと基礎的な義肢情報を頂き、確かにそうだ!と思いながら、彼女たちの身体を生かした何かを作ろうと考えていた。

当初はガラスの義足が作りたかったが、友人の手紙の通り工学などの知識が無く安全性に不安があった為義肢を作れるのかどうか悩んでいた。この中の情報を辿っていると最寄りの駅に大きな義肢装具のリハビリテーション施設があることが分かった。それが「公益財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンター」であった。最寄りの駅で装具を使用している人をよく見かけると思っていたが、こんなに近所に大きなセンターがあることに初めて気がついた。職員さんの案内で義足の歴史とともに、様々な義肢を拝見した。何よりまず初めて見る本物の義足に圧倒された。宮大工が作成した義足からオリンピック選手が使用している競技用の義足、正座をした際に膝頭が出る膝継ぎ手などユーザーの要望で出来た機構や足首が可動してヒールを履ける足部など、ただ歩くだけではない様々な用途に合わせて改良された機能を持つ義足に驚かされた。想像以上に形やバリエーションも豊富で機能性にも驚かされた。ソケットに膝継ぎ手、足部と主にこの3つを組み合わせて作成されている義足は、機能に合わせて選択され出来た形は美しいものばかりだった。
しかし、日本の制度では認可されているパーツは少ない。歩行や階段昇降をサポートする上で最適な最新の筋電の膝継手は保険が下りないので約300万円が実費であったり、自身の部位に似せた装飾義肢は同じく保険の適応外である。実は日本製の製品が世界シェアではまだまだ少ない事(アメリカやドイツなど海外製品の方がシェアがあると伺った)修理にコストや時間がかかる事もある。様々な義肢装具会社が日々開発に取り組んでいるが、一番の売り込みはパラリンピックで日本製品を使用してメダルを取る選手が出てくること。
また、高機能の義肢は保険適応外(生活に最低限の保障という明記があるため、生活がより快適になる機能は保険適応外となる)と聞き、当事者の方が作りたい義肢を作れない現状がある。

また、リハビリテーション施設は実際のリハビリ風景も見せていただいた。院内はリハビリをする方と理学療養士、職員との隔たりを作らないように、壁がない作りになっていた。当事者の方とフラットな関係を保ち、尊厳を大事にした構造となっていた。平均して6ヶ月くらいで切断からリハビリを経て自分に合った義足と共に歩けるようになり普段の生活に戻る方が多いと伺った。そんなに早く歩けるようになること、人間の適応力に驚いた。始めたばかりの方から、慣れた方まで様々な方が理学療法士とともに実際にリハビリを行う姿を見ていて、当事者の方から好意的な目を向けられていない目線もあった。その時初めて私は「健常者」という枠に入っていることをまざまざと実感した。この場では私はマイノリティの部類に入ると痛感した。その時、本当にこの課題を続けて良いのか?と頭をよぎったが、同時に慣れた様子で別の当事者を励ます女性を見かけた。彼女が左足につけた白い義足カバーがとても美しかった。自信がつけばこの様に自分でアレンジする余裕も生まれることを教えてくれた。様々なステップを踏んだ自身はまた次のステップへと運んでくれる。彼女の後ろ姿は自信に満ち溢れ、とてもカッコ良く感じた。私は、この課題を続けていれば彼女の様な女の子に会えるかも。という自信と期待を貰えた1日であった。

引用:
「情報プレゼンター とくダネ!」フジテレビ, 2009/9/8 08:00~09:55

参考文献:
斎藤 環 著「母は娘の人生を支配する なぜ「母殺し」は難しいのか」,第4版, 日本, 日本放送出版業界, 2008/05/30