Story
Princess Legができるまで

 モデルが決まり、次の問題は「ガラスの義足」を作ってくれる業者探しであった。義足には軽さを求められるという話は様々な義肢装具製作所で伺ってはいたが、ガラスでは重すぎると考え、透過性のある強度が耐えられる素材を模索していた。どんな素材が合うのかは素材を詳しく扱ったことがない為に目測でしか分かっていなかった。
最初の手がかりはジュリアンヘイクスというイギリスの靴ブランドが出していた「モヒート」というポリカーボネード製のパンプスであった。機動隊の盾や飛行機の素材に使われ軽量で丈夫な素材。この靴を頼りに、ポリカーボネード協会や業者などを幾つかメールを送り実現できるヒントを探していた。

何社か制作のお断りを頂いたのち立ち往生していた時にWEBで見つけ、好意的なメールを頂けたのは静岡の加工業者1社のみ。今回「ガラスの足部」を制作して頂いた有限会社コスもプラスチック工業の村瀬さんであった。
「個人でこんな物出来るかな・有ったら便利とお考えの方も。電話、ファックス、メールで(話~ポンチ絵又図面の書けない人も)お受け致します。」
「困ってる・探してる・アイデアが有る・何処かに無いか・どうしたら良いか・話を聞いて欲しい直に欲しい・代替品が無いか・接着出来ないか・溶接出来ないか・直したい・改良したい、こんな人はお問い合わせください。」
という一文がホームページにあり、話を聞いて頂けるかも!とメールをお送りしたのが始まりであった。すぐに返信があり、それから完成する約3ヶ月半ほどお付き合いを頂いた。ガラスの義足が作りたいがポリカーボネードで出来るのではないかと思っていたが、素材の扱いがとても繊細で硬化までの作業が難しい事、型を作成しなくてはうまく出来ず、数千〜数万のロットを作るのには向いていることを教えて頂いた。1つの物を作るのには向いていない事や透明度の事、素材の加工のしやすさやなどを考え、アクリル素材での作成となった。歩行にどのくらいの強度と柔軟性が必要か?どんな素材を組み合わせれば軽量化するのか?体重が乗った際の応力でクラックが起き怪我をしないか?など、多くの疑問を解決するために、様々な試作を行っていただきました。ガラスの義足とガラスのパンプスをつくるため、表面にレースを貼り強度を強くする方法や、アクリルとウレタンを合わせた成型、ドリルと刃物を使い削り出す方法か、真空成型で内側を製作してから形を作るのが良いか、足首の機構は稼働するのが良いか固定でも良いのか…など、数えきれないくらいのご提案と多くの試行錯誤と失敗を繰り返し製作して頂いた。その途中、ガラスや3Dプリント、CGでの合成なども提案してくれたが、撮影でやはり場の雰囲気を作るのはやはり実物大の実際に歩ける足部だと信じていた。その物が作り出す場の力はとても強いと分かっていたので譲らなかった。

業者に成型の依頼を出すのも初めてで何も勝手が分かっていない事情も汲み取って頂き、優しくも時に厳しく先生のように接して頂いた。ある時左側のパンプスの履き口部分の修正の際に、何も分からず気になった部分を感覚だけで書き込んで送り返してしまい、叱られたことがあった。やり取りでどうすることが円滑に事が進むのか業界によって言語が違うことも分かっていなかったことが勉強不足でとても反省したことをも覚えている。しかし、同時に実現可能かどうか分からないものを蔑ろにせずに「仕事」として真剣に接して頂いていることを改めて感じ、嬉しい気持ちになったこともあった。その言葉にならない私の望みを、形にしてくれた技術も素晴らしい。静岡に行くと村瀬さんが過去に何を行ってきたか話してくれる時間がとても好きだった。来る依頼は他では出来なかったことや業者がどうやって製作をしたら良いのか分からないものなど、頭を使うものが多いこと。プラスチックの加工の業者を始めるまで、過去に手がけた海外での仕事の話、魅力的な事業を行う業者の話など、過去の経験などを交えてお話をして頂いた話がとても面白く、お会いした時やメール、お電話でいつも伺えるのを楽しみにしていた。

静岡の工場で拝見した姿は職人の誇りと威厳、作業の丁寧さを拝見させて頂いた。70歳を超えて現役で仕事をされ、かつこれからやりたいことなど夢も話してくれる。的確なアドバイスと、優しさも頂き、ものづくりの先輩としての背中を沢山見せてくれた。様々なやり取りを経て、撮影間際にガラスの義足とガラスのパンプスは完成した。夢がまた一歩現実に近づいたことを実感した。

引用:「有限会社コスモプラスチック工業」http://www.cosmopura.com