私は婦人靴の会社で働き、個人でデザインの仕事を請け負っている。
日々出会う人々とのコミュニケーションの中で感じたことを一つの形に仕上げることが生活の一部になっている。
2016年5月に初めて個展をした。
その時のテーマを「人生で3本の指に入る美しい風景」を作りたいと思い、初めに思いついた19歳の時に東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(現・レインボー・リール東京)で見た女性カップルたちの光景にしようと決めた。興味本位行った映画祭であったが、愛の嗜好の違う人たちが一同に集まる場の雰囲気が心地良いと思ったことを覚えている。その時見たレズビアン映画上映後、その光景は待っていた。一緒に見ていた半数以上のカップルが全員静かに泣いていた光景が忘れられないくらい衝撃的であった。嗜好の違う方がマジョリティーになる空間にいて自身と全く違う感情を抱いていた事、「マイノリティー」という世間のレッテルに貼られた枠に入ってしまうと、普遍的な「愛」という感情は社会の目や法律の壁などで超えられない事がある。日本では妻として家族になれない。しかし、隣にいる恋人と一生一緒にいたい。理想と現実の間を悩みながらと純粋な望みを持つ彼女たちの涙がとても美しかった。この光景が私の概念が変え、女性がより美しく愛おしいと感じた瞬間だった。
そしてもう一つはある時ふと、仕事をしながら世界で一番美しい靴は何だろう?と考えたことがあった。真っ先に頭に浮かんだのがアメリカの作家マシュー・バーニーの「Cremaster 3」に出てくるAmy Mullinsが履いていた「ガラスの義足」と呼ばれているポリウレタン製の義足だった。
高校時代に雑誌で見たこのガラスの義足は歩くという用の美に加え、体の一部にアートを組み合わせ完成させた魅惑的な美しさ、儚さの中にある永遠に届かないような理想を形している様を見て吸い込まれるように圧倒された記憶を鮮明に覚えている。
展示の最中に、あるお客様から「次は何を作りたいのですか?」と尋ねられ、その光景を思い出し「ガラスの義足が作りたい。」と口にしていた。私は靴が好きでパンプスもハイヒールも颯爽と履きこなす女性の強さに憧れている。映画祭での出来事を思い出し、まだ知らない分野に触れ自身の概念が変わることが面白いと感じていたこと。素敵な女性たちと「いいね。」と言いながら作品を作れたらきっと楽しいだろうと考えたからである。
私はこれならその全てが叶えられる。と強く思い、義肢装具の世界を何も知らないまま作ることだけを決心する。
引用:
Neville Wakefield, Thyrza Nichols Goodeve , Nancy Spector, Henry Jenkins 著「Matthew Barney: The Cremaster Cycle」,初版, The United States of America, Guggenheim Museum Pubns, 2002/08, 309ページMatthew Barney「Cremaster 3 / SCULPTURE / OONAGH MACCUMHAIL: The Case of the Entered Novitiate」
http://www.cremaster.net/#